賃料を滞納している賃借人への対処

アパートのオーナーです。賃借人からの賃料の支払いが遅れては困るので、いつも使っている賃貸借契約書には、1ヵ月でも賃料を滞納したら、催告なしで賃貸借契約を解除できるという条項を入れています。現在、賃借人のAさんが賃料を2ヵ月滞納しているのですが、Aさんとの賃貸借契約を、この条項に基づいて解除することはできるでしょうか。

【回答】

賃貸借契約を解除し、賃借人に退去を求めるためには、単に賃料不払いがあるだけでは不十分で、信頼関係が破壊されているとみとめられることが必要です。

 

一般的には、1ヵ月や2ヵ月程度の滞納では、まだ「信頼関係が破壊されている」とは認められないケースが多いですが、それまでの経過も考慮されるので、ケースバイケースの判断となります。

 

具体的な判断や進め方については、まず、弁護士にご相談されることをおすすめします。

 

 

【解説】

契約の当事者のどちらかが、契約で決められた義務を履行しない場合、もう一方の当事者は、期間を定めて履行するよう催告をし、その期間内に履行がなければ、契約を解除できるのが原則です(民法541条)。例えば、ものを売ったけれども、売買契約で定めた支払期日に代金を払ってもらえないという場合、「1週間以内に代金を払ってください、支払いがなければ売買契約を解除します」という通知を送り、それでも支払いがなければ、契約を解除して、すでに目的物を引き渡している場合には返還を求めるということになります。

 

建物の賃貸借契約の場合、賃借人には、定められた支払期日までに、賃料を支払う義務があり、賃料を請求するのは、賃貸人にとっては当然の権利です。しかし、賃貸借契約は、売買契約などとは異なり、長期間つづく継続的な契約で、また、多くの場合、賃借人は、賃借物件を住居や営業の拠点として使用しています。賃料の支払いが1回遅れたら、ただちにアパートを追い出されて路頭に迷う、ということになると、賃借人にとってはあまりに苛酷な結果となります。

 

そこで、判例は、賃借人の債務不履行を理由に賃貸借契約を解除するには、単に債務不履行があっただけでは足りず、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されるに至ることが必要であるとしています(最判昭和39年7月28日民集18・6・1,220等)。つまり、単に賃料の支払いが遅れた、というだけではなく、債務不履行の内容やそれまでの経緯などを考慮して、両者の信頼関係が破壊されるに至る程度の事情があるかどうかによって、契約を解除して明け渡しを求めることが可能かどうかがきまるのです。

 

信頼関係破壊に至っているかどうかは、具体的な事情にもとづいて判断されます。たとえば、賃料不払いの場合、1、2ヵ月程度の不払いでは信頼関係破壊が破壊されるに至っていないと判断されることが多く、3ヵ月以上の不払いが必要、という人もいます。しかし、単純に期間の長短によって判断されるのではなく、それまでの経過~例えば、それまで賃料をきちんと払ってきたか、用法違反などはなかった等~や賃料不払いが始まってからの交渉の状況など、さまざまな事情が総合的に考慮されます。10年間まじめに賃料を支払い、特に問題も起こさなかったような賃借人が、失業で一時的に賃料支払いができなくなった、というようなケースで解除・明渡しが認められるためには、不払いが長期間にわたる必要がありますし、一方で、賃貸借契約締結後、一度も賃料を払わないまま、連絡もとれなくなってしまった、というような悪質なケースでは、比較的短期間で解除・明渡しが認められる可能性があります。

 

では、賃貸借契約書に、「1回でも賃料不払いがあった場合は無催告で解除できる」という条項がある場合はどうでしょうか。判例は、このような条項について、「賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみ」て、賃料不払いを理由に解除するにあたって、「催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合」に、催告なしで解除することができる旨の規定である、としています。つまり、このような条項があるからといって、1回の不払いでただちに催告なしの解除が認められるわけではないのです。

 

実際に賃借人に対処する場合には、後から裁判で明渡しを求める場合のことを考えて、「催告をした」ということが証拠で残るように、内容証明郵便を使って催告をすることが一般的です。また、賃借人が任意に明渡しに応じない場合は、裁判で明渡しを命じる判決を求める必要がありますので、裁判になったときに解除が認められる可能性がどのくらいあるかを弁護士に相談し、裁判になったときに証拠になる資料をきちんと確保しながら、賃借人との交渉を進めていく必要があります。